「相続税を不動産で納める」で本当にいいのか?延納・物納の条件と問題点

2015年1月1日に相続税法が改正されて以降、一時期は節税を目的とした不動産投資がブームとなりました。最近は、某不動産会社のサブリース問題や某金融機関の不正融資問題などで、ブームも少し下火になってきたかなと感じられるようになってきました。

この相続税法の改正というのは、相続評価額の基礎控除分を大幅に下げるという内容でした。これにより、従来の資産家や富裕層に限らず、都心にマイホームを持つ一般的なサラリーマン家庭においても相続税の納税対象になる可能性が高くなりました。統計によると、日本人の相続財産の内、不動産の割合は50%を超えているようです。もはや相続税の問題は決して他人ごとではなくなっているわけですが、みなさんは何かしらの対策・準備はできていますでしょうか?

相続税というものは、原則、「現金」且つ「一括」で期限内に支払わなければなりません。「突然、相続が発生しても手元に現金がない、、、」では済まされない問題なのです。
しかし、実は相続税の納税には「延納」と「物納」という裏ワザ(?)的なものが許されています。今回は「相続税が払えない!」といった緊急事態に活用できる延納と物納についてご紹介したいと思います。

相続税の支払いを延長できる延納とは?

延納とは、相続税を納付期限までに現金で一括納付することが難しい場合に、支払いを延長しながら、分割でコツコツ支払うことを許可してくれる制度です。

冒頭でも言いましたが、相続税というものは、財産を受け継ぐ相続人(=納税者)が納付期限までに現金、一括で支払うことがルールとなっています。しかし、相続する財産の金額によっては、相続税を支払うことが困難な方も出てきてしまいます。

そこで、税務署長の許可を受けることにより、分割払いで納付する「延納」の制度が設けられているのです。ただし、誰でもこの延納制度を利用できるわけではありません。延納の許可を受けるためには、下記の条件を全て満たさなければなりません

延納の条件

  1. 納付すべき相続税の金額が10万円以上であること
  2. 相続税を納付期限までに現金で納付することが困難な理由があり、その困難とする金額の範囲以内であること
  3. 原則として不動産などの担保を提供すること
    ※ただし、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合には担保を提供する必要はありません。無担保でOKです。
  4. 相続税の納付期限までに延納申請書と担保に提供する書類を添付して税務署長に提出すること

以上のように4つの条件を満たす必要がありますが、ご覧になってどうでしょうか。

条件1.のように相続税が10万円以上であればOKというのは、意外と条件が緩いなぁと感じますが、条件2.のように抽象的な内容もあるため、管轄する税務署の主観的な判断に左右される可能性もあります。また、延納できる期間は、基本的に5年間が最長とされていますが、相続財産の内、不動産の占める割合によって期間が更に延長されるという特典があります。

  • 相続財産の不動産の割合が5/10以上、3/4未満 → 10年~15年
  • 相続財産の不動産の割合が3/4以上 → 20年

このように相続する財産の内、不動産の割合が多ければ多いほど、相続税を延納できる期間が長くなるのです。不動産の相続が多い日本人の特性に適した内容といった感じですね。

延納のデメリットとは?

相続税の支払い猶予ができる延納は、納税する現金を確保するのが難しい方にとっては、嬉しいメリットです。しかし、延納にもそれ相応のデメリットが存在します。延納のデメリットとは何でしょうか?

延納の問題点(デメリット)

  1. 担保提供する不動産に延納した相続人の住所と名前、延納額が登記されてしまう
  2. 延納する期間に応じて利子税が発生する

延納の条件でも言いましたが、相続税の延納制度を受けるには、不動産などの担保を差し出さなければなりません。その際に、不動産登記簿の乙区(所有権以外の権利に関する事項が記載される箇所です。代表的なものでは抵当権の登記などが記載されます)に、相続の開始日や延納する相続税の金額、利子税の金額、それに相続人の名前、住所が記載されてしまいます。

不動産登記簿謄本の性質上、延納した相続税を完済した場合であっても、登記簿謄本には削除の目印である下線が引かれるのみで、記載されている内容自体が削除されることはありません。
つまり、相続税を延納した事実は、相続税を全て完済した後であっても、ずっと残ってしまうのです。不動産登記簿は誰でも簡単に閲覧、取得することができてしまうので、延納した当事者にとっては、あまり気持ちの良いものではありませんよね。

また、もうひとつの問題点として、延納するペナルティとして利子税が発生してしまいます。利子税の支払いは、相続税に加えて家計にとって痛い出費です。

利子税の額は、納めるべき相続税の額に利子税の割合と延納期間を加味して計算されます。具体的な利子税の金額は、個々の事案によって大きく差が出てしまうので、ここでは詳細は割愛しますが、利子税の税率は平成30年1月1日以降、年1.6%として計算されます。状況によって、数十万から数百万円の出費が追加で発生する場合があるので注意が必要です。

参考:ちなみに延滞税と利子税は違います

ちなみにですが、今お話ししている利子税は延滞税とは別ものです。

  • 利子税
    相続税を納付する方が、自ら希望して延滞することによって、支払う税金
    事前に税務署の許可をもらう合法的な意味合いの税金。
  • 延滞税
    相続税を納付する方が、支払いを怠り延滞することによって、ペナルティとして支払う税金。
    事前に税務署の許可は無い。罰金的な意味合いが強い税金。

上記のような違いがあります。税率も年1.6%の利子税と比べて、延滞税の税率は平成30年1月1日以降、年8.9%として計算されます。税率からみても延滞税の方が、罰金的な意味合いが強いということが、理解頂けるかと思います。

しっかりとルールに沿って相続税の申告を行う事により、延滞税を支払うという事態は防げますので、申告の期日は守りましょう。

相続税を不動産で納める物納とは?

続いては、物納についてのお話をしていきたいと思います。

物納とは、延納でも相続税の支払いが困難な場合に限って許される現金以外で納税する方法のことを言います。相続税の納付が難しい場合、いきなり物納ができるわけではなく、延納というステップをあらかじめ踏む必要があります。

延納は、相続税の納付期限までに現金で一括支払いができない方を対象とした特例でした。したがって、ある程度の現金を相続していて、相続税の納付が困難と認められない方には、延納が許可されないので、当然に物納も許可されないことになってしまいます。

物納を利用するには、相続税の納付期限までに必要書類を準備して、税務署長に提出しなければなりません。不動産で物納するには通常の売買契約と同じように下記の書類が必要になってきます。

  • 土地を物納する時の必要書類
    ・登記事項証明書
    ・住宅地図
    ・収益物件(駐車場など)は賃借人との賃貸借契約書
    ・地積測量図
    ・境界確定図
  • 建物を物納する時の必要書類
    ・登記簿謄本
    ・住宅地図
    ・収益物件(アパートなど)は賃借人との賃貸借契約書
    ・建物図面

不動産だけじゃない!物納できる財産とは?

ここでは、実際に物納できる財産を見ていきたいと思います。

物納=不動産を納めるというイメージが強いですが、実は物納できる財産は不動産に限りません。国債や地方債、社債などの債券、株式、船舶なども物納できる財産として認められているのです。物納できる財産は、種類や優先順位が決められており、下記の順位で納める決まりとなっています。

不動産は第一順位に入っていますので、不動産による物納は優先的にできることになります。

  • 第一順位
    ・国債、地方債、不動産(土地・建物・船舶)
    ・不動産のうち、「物納劣後財産」に該当するもの
    (厳密に言うと船舶は不動産に分類されます。知っていましたか?)
  • 第二順位
    ・社債、株式、投資信託等
  • 第三順位
    ・動産

物納劣後不動産とは、適している物納財産が無い場合に限って、物納が許される不動産のことをいいます。
具体的には下記のような不動産です。

物納劣後不動産の一例
・地上権や永小作権、賃借権などの権利が付いている土地
・違反建築となっている建物
・法律上、再建築が不可能な土地
・過去に自殺などの事件があった事故物件
・工場や浴場などの維持・管理に特別な手間がかかる建物

以上のように物納劣後不動産とは、資産価値の低い不動産になります。物納とはあくまで税金として現金を納税する代わりとなるものですから、受け取る側(相続税は国税です)としても資産価値のある不動産を納めてもらわないと困ってしまうわけです。

なお、物納を申請しても認めてもらえない、「物納できない財産」もありますので、併せて紹介しておきます。

物納できない財産の一例
・抵当権などの担保権が設定されている不動産
・何らか権利で第三者と紛争が起きてしまっている不動産
・共有で所有している不動産
・私道扱いとなっている不動産

物納のデメリットとは?

それでは、物納のデメリットは何でしょうか?具体的には、下記のようなものが挙げられます。

物納の問題点(デメリット)

  1. 税務署は物納する不動産を市場(時価)の値段で評価してくれない
  2. 測量や境界確定をする必要があり手間がかかる
  3. 物納の申請時から許可が下りるまで時間がかかり、その間に利子税が発生する

この内、一番の問題点として挙げられるのは、1.です。物納する場合の不動産の価値評価は一般的に低く見積もられてしまいます。

物納における税務署の価値評価には基準がありまして、土地は相続税路線価、建物は固定資産税評価額を参考に評価されます。ざっくり言うと、土地の相続税路線価は市場価値の80%、建物の固定資産税評価額は市場価値の70%でそれぞれ評価されます。

例えば、不動産の市場価値(普通に市場で売却した時の不動産価値)が1,000万円だと仮定すると、土地は800万円、建物は700万円で評価されることになるのです。

この仕組みを知ると、一つの疑問が出てくるかと思います。

「だったら、物納するのではなく、不動産を普通に売却して現金化してから、相続税を通常通り現金で納めたほうが良いのではないか」

ズバリ言うと、その通りです。それが物納の最大の問題点なのです。

ただし、不動産を売却して現金化すると言っても、直ぐに買い手が見つかるかどうかは分かりません。地方にある流動性が低い不動産を売却しようと思っても、そう簡単には買い手は出てきてくれません。
売却活動が長引けば長引くほど、利子税が多く発生するデメリットもあります。なので、物納すべき不動産なのか、物納せず売却して現金化できる不動産なのかを総合的に判断する必要性が出てくるのです。

まとめ 延納、物納の判断を迫られたら

最後に今回のまとめとして、3つの結論を出してみました。

万が一、あなた自身に延納や物納の判断が迫られた時、参考にして頂ければと思います。

  • 結論①

相続税は納付期限までに納付することが何より大事
→しっかりとした相続対策を行う

  • 結論②

やむを得ず延納する場合は利子税の支払いを最小限に抑える
→延納分の返済計画を立て、計画通りに返済する(税理士に協力してもらいましょう)

  • 結論③

さらにやむを得ず物納する場合は、物納する財産の資産価値を見極める
→物納した方が得か、売却して現金化した方が得かを総合的に判断する(不動産会社に協力してもらいましょう)

相続税は皆さんが考えている以上にみじかなものです。相続税の負担に加え、利子税や物納など余計な損失が出ないようにしっかりと事前に準備しておきましょう。